マエストロと佼成ウィンドの思い出2013年5月19日
今から15年くらい前でしょうか。
私がラジオのディレクターをしていた頃、
東京佼成ウィンドオーケストラが
常任指揮者であるフレデリック・フェネルさんが桂冠指揮者に就任する、
記念のコンサート・ツアーをするという情報を耳にしました。
ツアーの最終日が京都コンサートホールということで、
さっそく佼成ウィンドの事務局に電話し、
「○○放送の△△と申しますが、チケットはいつから発売ですか?」
ってな質問をしました。
電話を切ってしばらくして、
「俺ってなんて間抜けな電話かけてんやろ。
チケットの発売がどうのこうのとちゃうやん。
俺は放送局の人間やぞ。
その演奏会、収録して放送させてもらえますか、やろ!」
こんなお馬鹿な心の声から、
京都コンサートホールでのフェネル&佼成ウィンドを収録する企画が始動したのでした。
大阪(ザ・シンフォニー・ホール)での演奏を下見を兼ねて聴いたのですが、
ちょいとズレがあるな、疲れのせいかな、と感じました。
でも、ツアー最終日の京都は違いました。
見事な修正能力!
ゲネプロでちょいと合わせて、すぐにホールの特性を感受したようでした。
全曲通すようなことはせず、要点だけさらって、
「あとは本番で!」とフェネルさんが言ったかどうか。
でも、そんな感じでリハーサル終了。
そして本番は大爆発って感じ。
トランペットの人がミュートを転がしてしまう事件があったものの、
そこはご愛嬌。
ノリノリの演奏で、ホール全体にグルーヴ感がみなぎりました。
フィリップ・スパーク作曲『セレブレーション』なんか、最高でした。
※※※
ゲネプロの前だったか後だったか忘れましたが、
楽屋でマエストロ・フレデリック・フェネルにインタビューしました。
「これまで佼成ウィンドと一緒にしてきた音楽活動の中で、
何が一番印象に残りましたか?」
という質問に対し、
マエストロの応えは、
「長野の小学校を演奏して回ったこと」
でした。
「あの大曲の録音」
とか、
「あの難曲にトライした定期演奏会」
などの応えを予想していた私にとり、
これは意外な応えでした。
最初はざわついていた子供たちが、
少しずつフェネル&佼成ウィンドの演奏に惹きつけられていき、
最後には舞台と客席が一体となって盛り上がる。
そして大喜びの子供たちとふれあい、
別れを惜しみつつ次の学校を目指す旅。
マエストロの一番の思い出だそうです。
※※※
演奏会後の打ち上げにも参加させてもらいました。
佼成ウィンドの面々は、実に仲がいいのです。
特にツアー最終日の打ち上げですから、
輪をかけて雰囲気が良かったと思います。
が、若手プレイヤーがお酒を運んだり食べ物の注文を聞いて回ったりするのは、
やっぱり皆さん「吹奏楽部」経験者なんやな、って感じ。
先程のマエストロの言葉は本当なんだろうか、って思いがあったので、
プレイヤーの方々にも、
「長野の小学校ツアーって、そんなに印象に残っているんですか?」
と聞いて回ったのです。
「あれはホントに良かったな、毎日温泉に入れて」
というのもありましたが、
「自分たちの音楽をいろんな学校で、多くの子供たちに聴いてもらえてよかった」
というのが殆んどの方の答えでした。
ホルン奏者の方は、
「俺たちはどんな演奏会でも手抜きはしない。
それが俺たちの強味さ」
と、サラッと言ってのけてくれました。
カッコよかったなぁ。
アマチュアの私たちが見習うべきなのは、
その高い演奏能力でななく、
音楽へのスピリットにあるのだな、
と強く感じたのでした。