松竹大船調な SF2016年2月11日

MOVIX 京都では、本編上映の前に、歌舞伎俳優の方が今後公開される松竹映画を紹介するコーナーがあります。
ちょっと前までは片岡愛之助さんが『母と暮らせば』を紹介していらしたし、その前は尾上松也さんが『天空の蜂』を紹介しておられました。
現在のバージョンは片岡愛之助さんによる『家族はつらいよ』の紹介。
この映画のキーワードは、「松竹大船調喜劇の復活」だそうです。

そもそも松竹大船調とは、今はなき松竹大船撮影所で撮られた映画の特徴。
小津安二郎監督や木下惠介監督の作品、山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズなどが代表格なのでしょう。
片岡愛之助さんの言葉を借りると、松竹大船調とは、
・物語は必ずハッピーエンド
・決して奇をてらわない
・人々の日常を温かく描く
ってことになるそうです。

先日、MOVIX 京都のレイトショーで、マット・デイモン主演の『オデッセイ』を観ました。
片岡愛之助さんによる松竹大船調の解説を聴いたあとで本編上映だったのが効いているとは思いますが、この『オデッセイ』、松竹大船調やなぁと思いました。

6人の宇宙飛行士が火星探査をしているところ、超大型の砂嵐に巻き込まれます。
マット・デイモンは吹き飛ばされてしまい、他の5人による救助もままならず、一人、火星に取り残されてしまいます。
絶望的状況なんですが …

まず、物語がハッピーエンドかと言えば、はっきり書いちゃいましょう、ハッピーエンドです。

次に、決して奇をてらわないかと言うと、それは私には分かりませんでした。
が、『エイリアン』や『ブレードランナー』を撮ってきたリドリー・スコット監督の作品であることを思うと、ちょっと意外に感じるところがありました。
火星で一人ぼっちのマット・デイモンを撮っているカメラ・ワークが、何となく、小津安二郎監督の『東京物語』を思わせたのです。

最後に、人々の日常を温かく描いているかと言えば、「人々」ではなく「一人きり」ですが、丁寧に追っかけてるな、と思いました。
これはマット・デイモンその人に負うところが大きいと感じました。
マッチョなマットが、食料を切り詰めていくうち、救出間近になるとガリガリに痩せているのです。
役作りとはいえ、大変ですな。
また、一人ぼっちの日常を、映像日誌に残す形で描くシーンが多いのですが、まるでカメラに向かって語っているというか、独り言をいっているというか、とにかく人間臭くて面白いのです。

深刻なのに、深刻ばかりに描かない。
人は生きていくのに、つらくても笑うことがあるし、嬉しくても泣いちゃうし、大好きなのに反対の言葉を言っちゃうことがある。
人間を深く描いた SF 、私にはそんな印象が強く残りました。