一人旅2010年6月1日
思えば、4~5年前まで、私はヘビースモーカーだった。
セブンスターを毎日1~2箱吸っていた。
が、「タバコやめたら何ぼでも温泉一人旅していいよ」という女房の一言。
鼻面にニンジンがぶら下がった。
タバコと温泉一人旅、
そりゃもう温泉一人旅のほうがええに決まってますがな、
という訳で一念発起!
何度も挫折しながらも遂にタバコをやめた。
タバコという抑制剤がなくなったことで、
酒量が驚くほど増えることになるのだが。
こうして温泉一人旅の権利を得た私だが、
かと言ってしょっちゅう旅に出られるもんでもない。
大体、許可したくせに「旅に出るぞ」と言ったときの、
女房のあのイヤそうな顔ときたら…
しかし、今年のゴールデンウィーク。
旗日に関係なく働いた。
その代休をもらえることになった。
私と似た境遇のPerc.勝己君は、5/21(金)から4日間の代休だそうだが、
私は5/24(月)からの3日間。
意を決して温泉一人旅に出ることにした。
5/24(月)?
そう、あの大雨の日である。
私の決意はグラグラしていた。
この大雨の中、本当に鳥取まで出かけるのか?
この雨は出かけるなという天の声ではないのか?
朝イチからレーダーアメダスの画像と、JRの運行状況を睨みつつ、
ウンウン唸っていた。すると…
姫路付近で川の水位が規制値を超えたため、
運転取り止めの情報が飛び込んできた。
京都を発し、山陽本線を走り、智頭急行線を北上、鳥取を通り倉吉へ行く
特急「スーパーはくと」は運休になるに違いない。
これが逆に私の腹を決めるきっかけとなった。
家にいても埒があかない。
時刻表持って、とにかく京都駅に行こう。
みどりの窓口で最新情報を得ながら、
何とかして鳥取まで辿り着く方法を考えるのだ。
案の定、山陽本線はストップしており、
京都10:51発の「スーパーはくと5号」は運休となっていた。
幸い、山陰本線は止まっていないので、
京都11:25発の「きのさき1号」で城崎温泉まで行き(13:51着)、
そこで1時間待ちで普通(14:57発)に乗り継ぎ、
また浜坂で乗り換えて鳥取を目指すことにした。
が、折り返し「きのさき1号」となる「はしだて4号」が入線して来ない。
やはり大雨の影響で遅れているのだ。
入線は結局11:40過ぎで、
車内整理を終えたのち「きのさき1号」としての出発は11:50となった。
それから何度も何度も対向待ちのための一時停止が続き、
結局、城崎温泉到着は14:40。約50分の遅れだ。
乗り換え待ち1時間以上の筈が、
14:57発までちょうどよい具合の待ち合わせとなってしまった。
(ここからはダイヤ通り動くこととなる)
一人旅は、一人なるが故によい。
昔、スキットルに入れたウィスキーをチビチビ飲りながら旅する男を描いた
サントリーのCMがあった。
憧れだった。
もちろん、初めての一人旅って訳じゃない。
どちらかというと旅慣れしているほうだと思う。
が、今回は異常に寂寞感を覚えた。
城崎温泉発、浜坂行きの普通列車。
2両編成のワンマンカーである。
その2両目に乗っていたのは、私を含めたった3人だった。
鎧(よろい)付近では、リアス式海岸の崖の頂が見えぬ程低く雲がたれこめていた。
余部(あまるべ)鉄橋を通ったのは約3年ぶり。
おそらくこれが最後だろう。
横には新しい鉄橋が、もうほとんど完成しかかっている。
トレッスル式の美しい鉄橋は、取り壊される運命なのだろうか?
浜坂で鳥取行きの普通に乗り継ぐ。
雲が低い。
やはり2両編成のワンマンカーの2両目。
最初は中学生か高校生らしい地元の少年少女5~6人と一緒だったが、
次の諸寄(もろよせ)で降りてしまい、
私一人きりとなった。
その次の居組(いぐみ)は、なぜこんな山の中に駅があるのか分からない、秘境駅である。
驚くことに、前の車両から女の子が一人降りた。
この駅で乗降客を見たのは初めてである。
駅前に迎えに来ていた車に乗り込むのが見えた。
あの車、どうやってここまで来たのだろう?
それからズーッと一人だった。
一人は気楽でいい、と思っていたが、
そういえばこれまで、何やかやと周りには人の話し声がしていた。
たわいもない世間話、その土地土地の言葉に耳を傾けるのは楽しいものだった。
が、誰の話し声もしない。
外は山陰の篠つく雨。寂しい。
宿に着いた。
スーパーはくとに乗れなかったので2~3時間遅れたが、
何とか無事辿り着くことができた。
ようやく晴れ間が見えてきた。
宿の人と話す何気ない会話が、
とても楽しかった。